金型産業の製造において品質向上、リードタイム短縮、コスト削減は大きな課題だ。その一方で製品設計の複雑さと多様化により金型形状精度と表面品質に対するが非常に高くなっている。金型製造においてミガキや面合わせなどの職人技術的ノウハウが失われるなか高品質と生産効率の向上が求められている。
加工精度低下の主な原因となる熱変位。高速主軸で熱変位を低減し重切削を行う事は容易ではない。現在は回転する主軸に冷却油を流し込んで直接に主軸を冷却する主軸冷却技術が利用されているが、今回のこの技術は必要な部品だけを効率よく冷却する事により低コスト構造と高冷却性能を実現した。
構造と特徴
スピンドル装置のスピンドル冷却構造(20,000 min-1仕様)は冷却が最も必要であるフロントベアリングのみを効率的に冷却する(図1)。冷却油はフロントベアリングとモーターの間から供給され、フロントベアリングを冷却した後主軸の先端から回収される。

高精度
金型を高精度に加工するためには主軸と工具の熱変位を最小限に抑える必要がある。一般的な主軸装置では回転体である主軸の冷却は大気への熱放出のみであり冷却効果は僅かとなる。主軸と工具は運転前に冷却される(図2(a))が、運転時にはベアリングとモーターから発生する熱が蓄積され熱膨張が発生する(図2(d))。これまでは、主軸全体を冷却して熱膨張を抑える手法が使われていた(図2(b))。ちなみに主軸は5つのベアリング(前面に4つのベアリング)で構成されている。従ってフロントベアリング周辺を冷却すれば工具先端の変位を効果的に低減する事が可能となる(図2(c))。スピンドルは工具先端の位置に関係なく後方に熱膨張するため加工精度には影響しない。この考え方に基づき当社は最も必要なフロントベアリング周辺を集中的に冷却する熱変位低減効果の大きい冷却構造を開発した。

高性能
仕上げ加工時の変位をなくすには機械始動時、工具交換時、そして回転数の変更時の都度十分な暖気運転が必要となる。通常一つの金型を製造する際10個以上の工具が使用され暖気運転による生産性の低下とエネルギー損失が非常に大きくなる。当社の技術を使えば、図3に示すように熱変位が安定するまでの時間を大幅に短縮する事が可能となる。従って暖気運転によるエネルギーの損失を最小限に抑える事ができる。更に熱変位補正システムを利用する事で暖気運転を5分以内に短縮できる。

加工能力
新主軸の冷却技術は高精度部品および金型加工用の立形マシニングセンタ「MP-46V」の主軸として採用されている(図4)。

金型の品質を向上させ、コストを削減し、リードタイムを短縮するためには金型加工用マシニングセンタに多くの技術を必要とする。この新しい主軸構造は試行錯誤を何回も繰り返してその開発に至った。冷却回路の検査、高速での冷却剤の信頼できる供給分析の実験のもと製造され検証された。そして冷却効率の高いシンプルな主軸を造る事に成功した。この新主軸冷却技術を搭載した「MP-46V」の性能は全ての項目において従来モデルから大幅に向上している(表1)(図5)。新主軸冷却技術を搭載した高精度部品・金型加工用「MP-46V」は、当社のお客様から高い評価を得ている。

Article by: Okuma Techno (Thailand) Ltd. & MEGA Tech